エフとナナシの話
家族を殺された敵討ちにエマは来世ナナシと戦い、後にナナシに敗れて命を落とす。エマの家族を殺した時にエマはナナシから身を隠し逃げ切ることに成功していたので、ナナシはエマの顔をほとんど覚えてなかった。どんな顔だったのか確認の意味も含めて最後に顔を見ておこうかと顔を見た。
そういえばレオもエマみたいに憎しみの篭った顔で自分を攻撃してきたなと思った。命のことなんて忘れてた、そういえばいつか死ぬのが普通のことだったな、生死なんてどうでもいいと思っていた事を思い出す。
同時に元の世界でエマのような人がいた事も思い出した。その事を思い出した途端に元の世界のエマの明るい顔がぼんやり頭に浮かんできた。エマだけだけど、これまでぼんやりとしか思い出せなかった元の世界の人達の顔を、やっとハッキリ思い出すことができた。ここで冷たくなっているエマと元の世界のエマの姿を重ねて、思わず涙が溢れた。
ナナシが涙を流したところにエフが現れてナナシに能力で夢を見させ、夢の中でナナシと対峙して、ナナシに家族を殺されてどんな思いでエマが生きてきたのかを簡潔に話した。そして「エマのことが本当は好きだったんでしょ?」とナナシに言った。
やり場のない怒りと逆上によってナナシはエフの片腕を切り落とした。夢だけど痛みはあるし血は止まらない。すごく痛いけど不思議と耐えられる。意識を保てる。
「今ならエマを救える。やり直せる」と自分の事などお構い無しに言った。エマのことを好きなら、今までの事を少しでも後悔してるなら今しかチャンスはないとナナシに伝えた。ナナシはそんなエフの逞しい姿と、エフの話と、エマは死んだはずなのにまだ生きてるみたいなことを言うエフに対して驚いた顔を見せる。エマが生きてるなんて信じられない。
「エマはあっちにいる。救ってあげて」とエフは言った。ナナシは何も言わずにただ半信半疑に表情に動揺の色を見せながらエマのところに向かった。
エマは木にもたれかかって眠っているようだった。悪夢にうなされているのか苦しそうだったし涙を流していた。
試しにエマに触れてみたらエマの記憶と感情が頭に流れ込んできた。そこで詳しくエマのこれまでを知り、自分のしてしまったことに罪悪感と後悔を改めて強く覚える。どうしたらエマを救えるのか考えた結果、エマが苦しんでいる理由は全部自分のした事のせいだった。それなら記憶を奪うことでエマは一番楽になれるかもしれないと思い、「記憶を奪う能力」を得た。何故記憶を消す能力にしなかったのかというと、記憶は完全に消せないから相手の記憶をキレイさっぱり取り去れば思い出すことは100%ないと思ったから。
おでこにデコピンをしてエマから辛い記憶とそれを思い出す原因となる記憶を全て奪った。そこでエフは夢を現実にした。
エマは泣きやみ、目を覚ました。ナナシは「おはよう」と言った。エマは「おはよう。…あなたは誰?」と言った。エマは自分の名前、家族、これまでの全ての記憶を失っていた。言葉は喋れるようだった。
ナナシは簡単に自己紹介した。聞かれたことには全部答えた。ナナシはエマの面倒を一生みることを決心した。
エフ視点
ナナシがエマの所へ行った頃。エフは腕の痛みで夢を維持させるのに必死だった。エフは魔法が使えないうえにこの能力は「相手に夢を見させる」もの。自分自身の腕を治るように念じるのではなく、相手にエフの腕が治ってるように見せないといけない。だからどんなに念じても腕は治らない。エフはパニックになっていて、そこまで考えられなかった。エフは怪我すること自体が初めてだったから。
治って欲しいけどそれよりもエマが救われる方が優先度が高い。腕を直すのを諦めた。
二人が上手くいったところを確認してそのまま夢を現実にした。
エフは片腕を失い、血を流しながらナナシがいた城内で横たわっている。ナナシとエマは夢でいた場所と同じどこかにある草原で実体化した。
痛みとまだ生きたくて涙が流れる。エマを救えたからいいやとも思う。薄れいく意識の中で短い人生が走馬灯として駆け巡った。
「せっかく生まれてきたのだから誰かに愛されてみたかった」と思い、意識を手放した。
エフは失血死した。
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